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前橋地方裁判所 昭和52年(行ウ)8号 判決

原告 久保田進

〈ほか二名〉

原告ら訴訟代理人弁護士 小林勝

被告 千代田村村長 大谷典三

被告 千代田村公平委員会

右委員長 柿沼善吉

被告ら訴訟代理人弁護士 阿久澤浩

主文

一  原告らの被告千代田村村長に対する各訴は、いずれも却下する。

二  原告らの被告千代田村公平委員会に対する各請求は、いずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら(請求の趣旨)

1  被告千代田村村長が原告らに対し昭和五二年一〇月一日付でした大泉町外二箇町村環境衛生施設組合への派遣勤務命令処分は、いずれも取り消す。

2  被告千代田村公平委員会が原告らに対し昭和五二年一二月一日付でした異議申立の却下決定は、いずれも取り消す。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  被告ら(本案前の申立)

1  本件訴はいずれも却下する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

三  被告ら(本案に対する答弁)

1  原告らの請求はいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  原告ら(請求の原因)

1  昭和五二年一〇月まで、原告久保田進(以下「原告久保田」という。)は千代田村の事務吏員で同村役場住民課に配属されて勤務し、同課において課長の地位にあり、原告今田得治(以下「原告今田」という。)は同村の技術吏員で同課に配属されて塵芥収集車の運転手として勤務し、原告小沢浅夫(以下「原告小沢」という。)は同村の技術吏員で同課に配属されて塵芥収集車付き清掃夫として勤務していたものであって、被告千代田村村長(以下「被告村長」という。)は地方公務員法(以下「地公法」という。)六条により原告らの任命権者であり、また被告千代田村公平委員会(以下「被告公平委」という。)は同法七、八条により原告らに対する不利益な処分についての不服申立てに対する裁決又は決定をする権限を有する行政機関である。そして、原告らは、被告村長より昭和五二年一〇月一日付をもって地方自治法(以下「地自法」という。)二五二条の一七の規定に基づいて大泉町外二箇町村環境衛生施設組合(地自法二八四条の一部事務組合である。以下「本件組合」という。本件組合は大泉町内にあり、それまで大泉町の職員のみが派遣されていた。)へそれぞれ派遣勤務を命じられ、同日、本件組合の管理者より、原告久保田は事務吏員に任命されて参事兼庶務計画係長収集係長に補職され、原告今田は運転手兼清掃手として任命されて収集係を命じられ、原告小沢は清掃手として任命されて収集係を命じられた。そこで、原告らは右各派遣処分(以下「本件各派遣処分」という。)は不利益処分であるとして被告村長に処分事由説明書の交付を請求したが、拒否された。ついで、原告らは同年一一月二日付で被告公平委に対し、本件各派遣処分はその意に反する不利益処分であるとしてその各取消しを求める審査請求をし、同時に口頭審理を求めたが、同年一二月一日付で何ら理由を示さずに原告らの不服申立を却下する決定(以下「本件各却下決定」という。)をした。

2  本件各派遣処分は、原告らに対し以下に述べるような不利益をもたらすもので原告らはこれに同意していないから地公法四九条のその意に反する不利益処分であり、また、被告村長が人事権を濫用したものであるから違法である。よって、原告らは被告村長に対し、本件各派遣処分の取消しを求める。

(一)  原告久保田について

(1) 同原告は職制上上位の職である課長から下位の職である参事に降任となった。

(2) 同原告は千代田村役場に一般事務吏員として勤務していたものであるが、ごみ処理と火葬のみを目的とした本件組合に勤務することとなり、職種が変更された。そして、このような職種の変更は、同原告が仕事上で誤りを犯したので左遷させられたものであると評価され、同原告に対する評価が低下する。

(3) 本件組合において支給される給与は、大泉町外二箇町村環境衛生組合職員の給与に関する条例によれば、大泉町職員の給与に関する条例によるとされているので、同原告は千代田村から管理職手当として本俸の一五パーセント支給されていたところ、同組合からその手当は一二パーセントしか支給されないことになって月額六四八〇円の減額となる。

(4) 同原告は千代田村役場にバスで通勤(交通費は全額支給されていた。)していたが、本件組合は交通の不便な所(同原告宅から約九キロメートル)にありバスや鉄道等の交通機関を利用できないのでやむをえず普通乗用車を運転して通勤しているが、燃料費等の負担が増え、通勤費は月額四八〇〇円多く出費しなければならなくなった。

(5) 同原告に対する派遣処分は、被告村長が同原告に対する個人的悪感情から同原告を千代田村役場から追放しようとしてしたものであり、自由裁量権の範囲を逸脱したものである。

(6) 本件組合の事務にはゴミ収集の業務が含まれていないのに、ゴミ収集の一元化を理由に派遣したことは、根拠を欠き違法である。

(二)  原告今田及び同小沢について

(1) 両原告は千代田村だけの塵芥収集等の作業をしていたが、大泉町・邑楽町のごみ収集と危険物破砕作業が加わって労務の程度が著るしく重くなり、職域も格段に広がった。

(2) 両原告は千代田村住民課の職員からごみ収集危険物破砕作業等を目的とする本件組合の職員に変更されたが、これにより両原告に対する評価が低下する。

(3) 原告今田は原告久保田と同様に普通乗用車で通勤せざるをえなくなり、燃料費等の負担が増え、原告小沢は、千代田村役場には徒歩で通勤できたが、本件組合まで約九キロメートルの距離を自転車に乗って通勤せざるをえなくなった。

(4) 両原告に対する派遣処分は、被告村長が原告久保田に対する個人的悪感情から自由裁量権の範囲を逸脱してした同原告に対する派遣処分についての非難をさけるために、原告今田、同小沢を巻き添えにしたものである。

(5) 本件組合の事務にはゴミ収集の業務が含まれていないのに、ゴミ収集の一元化を理由に派遣したことは、根拠を欠き違法である。

3  原告らは本件各派遣処分を知った日の翌日から六〇日以内に地公法四九条の二、三の規定に従って被告公平委に対し、本件各派遣処分の取消しを求める審査請求をしたにもかかわらず、同被告は理由を示さず本件各却下決定をしたものであるので、本件各却下決定は違法である。

よって、原告らは被告公平委に対し、本件各却下決定の取消しを求める。

二  被告村長(本案前の申立の理由)

1  本件各派遣処分は処分性がないので、被告村長には被告適格がない。

派遣勤務命令は、その前手続として派遣を求める受入れ機関(以下後の機関という。)の任命権者が派遣対象職員が勤務する機関(以下前の機関という。)の任命権者に当該職員の派遣を要請し、同任命権者がこれに同意することが必要であって、この派遣要請、同意という実質的な手続を経た後、形式的なものとして前の機関の任命権者が当該職員に対し派遣勤務を命じ、後の機関の任命権者がこれを任命するものであるから、派遣勤務命令それ自体は独立して完結する任用行為ではなく、後の機関の任命権者の任命があってはじめて完結する任用行為である。しかも当該職員が後の機関の職員に任命されるという直接の法律効果は後の機関の任命権者の行為によるものであり、前の機関の任命権者は右法律効果を直接発生させる行為をなしえない。

2  原告らは本件各派遣処分の違法確認を求める請求から昭和五三年三月二三日その取消しを求める請求に訴の変更をしたが、原告らは昭和五二年一二月一日には被告公平委が本件各却下決定をなしたことを知っていたのであるから行政事件訴訟法一四条所定の出訴期間の三ヶ月を徒過しているので、原告らの本件各訴は不適法なものである。

三  被告公平委(本案前の申立の理由)

原告今田は塵芥収集車の運転手として、原告小沢は塵芥収集車付き清掃夫としてそれぞれ千代田村に採用されているから、両原告は単純労務職員であって被告公平委に対し不服申立ができないので、ひいては本件各訴も提起できない。

四  被告ら(請求の原因に対する認否)

1  請求の原因1は認める。

2  同2の冒頭部分は争う。

3  同2の(一)の(1)のうち、職制上上位の職である課長から下位の職である参事に降任となったことは否認するが、その余は認める。原告久保田は千代田村においても本件組合においても等しく行政職給与法(一)の一等級一五号給である。同(2)は否認する。原告久保田は事務吏員の職種についての変更はない。同(3)は認める。同(4)、(5)は否認する。被告村長は本件組合の管理者から衛生事務の熟達者の派遣を要請された際、従前の職務に鑑みて同原告を最適任者と判断し、また同原告が転勤を強く希望していたこともあったのでその派遣を決定したものであり、人事権を濫用していない。同(6)は否認する。

4  同2の(二)の(1)のうち、労務の程度が著るしく重くなり、職域も格段に広がったことは否認するが、その余は認める。同(2)ないし(5)は否認する。

5  同3のうち、理由を示さず本件各却下決定をしたのは違法である点は争うが、その余は認める。不服申立を却下する決定には理由を示す必要がなく、単にこれを申立人に通知すれば足りるのであるから、本件各却下決定は違法ではない。また、本件各派遣処分は不利益処分ではないので、審査請求を被告公平委は受理することはできず、却下すべきものであった。

五  原告ら(本案前の申立の理由に対する反論)

1  被告村長が当該職員を任命権者を異にする他の機関に派遣する場合には、他の機関における職務待遇等を考慮して派遣協議をすべきであり、他の機関の任命権者の任命行為のみによって当該職員の身分を移動することはできないので、被告村長は実質的にも形式的にも処分権者であり、本件各派遣処分は処分性がある。

2  本件各派遣処分の違法確認とその取消しを求める請求は、請求の基礎が同一であり、第一回口頭弁論期日が昭和五三年一月に指定されたにもかかわらず同年三月二三日に変更されたため、やむをえず同日取消しを求める請求に変更している。従って、出訴期間を徒過していない。

3  原告今田及び同小沢は本件各派遣処分以前は千代田村住民課の技術職員であって、単純労務職員ではないので、被告公平委に本件派遣処分の取消しを求める審査請求をしたことは適法である。

第三証拠《省略》

理由

一  先ず、被告村長に対する請求について判断する。

原告ら主張の請求の原因1の事実については当事者間に争いがない。さて、原告らは本件組合の職員に任用された処分を争って処分の取消しの訴を提起している。そして、原告らが取消しを求めている本件各派遣処分は地自法二五二条の一七に基づいてされたものであるが、同条に基づく職員の派遣の手続は、後の機関の任命権者が前の機関の任命権者に職員の派遣を求め、前の機関の任命権者と協議したうえで、前の機関の任命権者が派遣に同意すると、前の機関の任命権者が当該職員に対して派遣勤務を命じ、後の機関の任命権者がこれを任命するというものである。従って、前の機関の派遣勤務命令は当該職員に直ちに後の機関の職員たる身分を取得させるものではなく、派遣勤務命令の次に後の機関の任命権者の任命があってはじめて後の機関の職員たる身分を取得するので、派遣勤務命令は独立して完結する任用行為ではない。すなわち、このような一連の任用行為の中で主体となるのは後の機関の任命権者であり、前の機関の任命権者は後の機関の任命権者の任命について同意を与える行為をするにすぎないものであると考えられる。そうだとすれば、派遣勤務命令は単に職員を他の任命権者が任用するについて当該任命権者が同意する旨を当該職員に通知する行為にすぎないものであり、それ自体は当該職員の後の機関への異動についての独立した行政処分ではなく、当該職員に対して直接の法的効果を生じさせるものではない(後の機関の任命権者がした新しい職への任命行為が取消しの訴の対象となる処分である。)。

よって、本件各派遣処分は原告らが本件組合の職員に任用された処分の取消しを求める訴の対象となるものではないから、被告村長に対する各請求は不適法であり、却下することとする。

二  次に、被告公平委に対する請求について判断する。

既に述べたとおり原告ら主張の請求の原因1の事実については当事者間に争いがない。

被告公平委は、原告今田及び同小沢は単純労務職員であるから被告公平委に対し不服申立ができないのでひいては本件各訴も提起できない旨主張する。しかし、本件各却下決定は審査行政庁である被告公平委に対する不服申立要件の有無に関する決定であるところ、右各決定の名宛人である原告らは自己に申立人適格があると主張して審査請求に対する裁判所の判断を求めて争うことができるものというべく、本件各訴訟は被告公平委が審査請求を却下したことの当否を本案とするので、両原告は原告適格を有するものであり、右主張は失当である。

原告らは、本件各却下決定に理由を示さないのは違法である旨主張する。しかし、地公法五一条は、不服申立の手続及び審査の結果執るべき措置に関し必要な事項は人事委員会規則または公平委員会規則で定めなければならないと規定しており、同条を承けて不利益処分についての不服申立てに関する規則が定められているところ、同規則五条四項によれば、不服申立を却下すべきものと決定したときはその旨を不服申立人に通知する旨規定されているだけであるので、不服申立てを却下する場合に理由を示さなくても手続的に違法ではないと解される(このように解すべきことは、同規則一二条は公平委員会が判定を行なうときは判定書に理由を記載しなければならない旨を規定していることから明らかである)。

よって、本件各却下決定には理由を示さなくても手続的に違法ではないので、原告らの被告公平委に対する各請求は理由がなく、棄却することとする。

三  以上説明したとおりであるから、その余の争点について判断するまでもなく、原告らの被告村長に対する各訴はいずれも却下し、被告公平委に対する各請求はいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 川名秀雄 裁判官 大島崇志 本間栄一)

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